自動車の運転におけるアクセルペダルとブレーキペダルの踏み間違い事故防止に関わる実験的研究(2)

大野一郎¹⁾ 松永勝也¹⁾ 合志和晃²⁾ 林政喜²⁾ 隅田康明¹⁾ 西島衛冶³⁾ 鳴瀬益幸⁴⁾ 本多好男⁵⁾ 大浜康人⁶⁾ ポール ターナー⁷⁾

Eliminating Unintended Sudden Acceleration in Automatic Transmission Vehicles (2)

Ichiro Ono¹⁾ Katuya Matsnaga¹⁾ Kazuaki Goshi¹⁾ Msaki Hayashi¹⁾ Yasuaki Sumida²⁾ Eiji Nishijima³⁾ Masuyuki Naruse⁴⁾ Yoshio Honda⁵⁾ Yasuto Ohama⁶⁾ Paul M. Turner⁷⁾

The purpose of this study is to provide a fundamental solution to the numerous automatic transmission vehicle crashes caused by unintended sudden acceleration.
The likely leading factor behind the numerous number of accidents attributed to unintended sudden acceleration is the dual accelerator and brake pedal placement and some direction of operation.
To eliminate the number of vehicle accidents attributed to sudden acceleration, Authors adopted the Npedal for this research because the N pedal has unique operating design for accelerator.
The N pedal is a revolutionary combined type of a pedal for accelerator – on a pedal for braking. Several simulator and real car experiments have been conducted to search possibilities to prevent car crashes caused by unintended sudden acceleration utilize by N pedal.

KEY WORDS: (Standardized) human engineering, human error, driving act/driver behavior [C2]

1.まえがき

自動変速機(オートマティック トランズミッション)が装備された自動車(以下AT車という)が開発された当初から,運転者の意図しないペダル踏み間違いによる交通事故が発生してきた経緯がある,このことに関して自動車製造者は,運転者がAT車の取り扱いに不慣れなことが主要な事故原因であるとの見解を採ってきている.しかし, AT車が乗用自動車販売の大半を占める⁽²⁾ようになって, AT車の限定免許が1991年に施行されてもこの形態の事故は継続して発生し続けた.

1980年代に入ってから再度社会的に問題となって再燃した時があったが,根本的な解決を得ずして今日(2013年)まで至ってきた. 最近になってまた,立体駐車場から転落する,あるいはコンビニエンスストアに突入するといった事故例が報道されクローズアップされてきている.

この種の交通事故は2000年~2009年の統計を見ると年間約7000件前後で推移している事実があり,2008年度の死傷者数は約9,600人に上っている⁽¹⁾.

また,この種の事故があたかも高齢者だけに発生するような社会通念があるが,交通事故統計(1)から見ると総ての年齢層で発生している事実があり,2008年度においては24歳以下の若年層の事故件数が70歳以上の高齢者の事故件数より上回っていることもある.総じて24歳以下の若年層と70歳以上の高齢者にこの種の交通事故割合が多い.ペダル踏み間違いは,マニュアルトランズミッション車にも発生しているが,交通事故に至った例はないことから,踏み間違いによる交通事故はAT車によって発生している¹⁾可能性がある.

  

我が国においてAT車が新車販売台数に占める割合は,2003年で95.1%,2010年には98.3%に達している(2).

自動車を運転するときのペダル操作は,渋滞時走行を除き,そのほとんどがアクセルペダルの操作であるために,運転中,運転者の右足はほとんどアクセルペダル上にあると考えられる.このような時に運転者にとって何等かの不測の事態が発生し,非常に驚愕するようなことがあると踏み替えをすることなく足を突張ってアクセル操作を継続することにより,事故に発展している可能性がある⁽³⁾. このような暴走事故においては,運転者が事実上アクセルペダルを操作しているにも拘わらずブレ―キペダルを踏下していると信じて操作している事故例もあることから,アクセルペダルとブレーキペダルは,操作している運転者が足の感覚でどのペダルを操作しているのか容易に識別できるものでなければならない.

現状のペダル操作ではアクセルペダルとブレーキペダルがハンドルの下方に位置するため,どちらのペダルであっても操作を行うために目視で確認することは困難である.また,足裏の感覚は靴を履いていることもあって手のひらの感覚に比較して極めて鈍感であるためアクセルペダルを踏下しているのかブレーキペダルを踏下しているのかについての違いを明確に識別できないことも多い.

我が国でこれまでに発生した踏み間違い事故に関しては,その総てが運転者側の一方的な「過失」が招いた結果の事故と評価されて事故処理されている現状があるが,そもそも全く正反対の作動をするアクセルペダルとブレーキペダルが構造的に隣接して配置され,また双方とも同じ「踏下」するという操作を感覚だけで行わなければならないこと,及びその操作感覚について双方のペダルの区別確認が困難であることについては,現行型のペダル構造において踏み間違い事故の防止を行うことが人間の生理的能力の限界を超えている可能性があると考えられる.

本研究は,踏み間違いによる交通事故の防止を図るためにアクセル操作を従来型ペダルとは別の方式にしたペダルを採用して実験による検証を行うものである.

2. Nペダルの構造

この種の事故を防止するためにアクセルペダルとブレーキペダルの操作を全く別な方法にするペダル構造に変更する方法が効果的であると考えられる.

人間は何かに衝突すると認知したときなど緊急時には足を突張って体幹を防護しようとする本能的反射な傾向があるため,ブレーキ操作方法を現行通り「踏下」する操作方式のままにし,アクセルペダルの操作方式をこれとは別の方法とすることによってこの種の事故を防止できる可能性がある.
すなわち,「踏下」する場合はブレーキとしてのみ作用することとし,運転者が明確にアクセルを操作していることが認識できるように「踏下」することとは全く別の操作方式にすることが考えられる.

Fig.1 Installation of the Npedal

1990年頃,右足甲を右に傾けることによってアクセル操作を行い,ブレーキペダルの操作は従来通り踏下するという操作方式が開発された.このペダル方式(以下Nペダルという.Fig1.参照)は,大型のブレーキペダルの右横部にアクセル操作用の棒形状のペダルをその一端を支点として装着する操作方式を採用している.
このペダルではアクセル操作方式は従来型アクセルペダルとは根本的に異なるものとなっており,また,ペダルを踏下すれば,アクセル機能は機構的に自動解除されブレーキとしか作用しないため,ペダル踏み間違い暴走事故の防止には非常に効果的であると考えられる.
自動車を運転中,右足は常にこのブレーキペダルの上に置いておくが,Nペダルの構造上半ブレーキ状態になることはなく,従ってストップランプが点灯することはない.この操作方法から,ペダルの踏み替え時に発生する所謂,踏み替え時間が短くなり必然的に空走距離は短くなる可能性がある.

また,アクセルを右に倒して操作中であっても,そのままブレーキを踏み込むとアクセルペダルに装着されたアクセル解除機構によって,アクセルは無作動位置に戻りエンジンアイドリング状態になる.
このため何れの走行状態であっても,踏下することはブレーキの作用にしかならないのでアクセルペダルを踏下し続ける暴走事故の防止に効果的である可能性がある.

3.シミュレータ実験

Fig.2 Recovery rate of misoperation

従来型ペダルとNペダルとの操作性能を比較するために,先ず,運転シミュレータ装置を使用してNペダルと従来型ペダルとの各種性能比較実験を実施した.
この実験結果については,2012年度自動車技術会秋季講演会⁷⁾で報告したところであるが,特にペダルの誤操作後に修正操作を実施した誤操作リカバリ率(Fig.2参照)においてはNペダルが76.3%,従来型ペダルが42.4%とNペダルが有意に高かった(p<0.05).
このためNペダルは誤操作後にリカバリ操作をし易い構造を持っているという結果を得た.