4.実車実験

4.1 目的

シミュレータ実験に引き続いて,実際の踏み間違いによる事故に近い状況を模擬再現し,事故の防止を行うことが可能であるかどうかを検証するために従来型ペダルとNペダルをそれぞれ装着した実車を使用した比較走行実験を実施した.

4.2 方法

Fig.3 Driving Course Layout

ペダル踏み間違い事故は,店舗に併設する平面駐車場内で多く発生⁵⁾していることから,走行実験コースを店舗平面駐車場を模擬したものとした(Fig.3参照).
実験参加者は,交互に従来型ペダルを装着した実験車とNペダルを装着した実験車で走行し,実験走行中に,実験者によって実験参加者には告知せずに車体を急加速する外乱を付与した.
なお,実験参加者に順序効果が発生するためにNペダル装着車と従来型ペダル装着車への乗車順番を交互にした. 
また,実験に先立って実験参加者全員にインフォームドコンセント(書面による実験内容の説明を行い,本実験への参加の承諾)を実施した.

4.3 実験装置の概要

実験車には安全装置として助手席に補助ブレーキ及びエンジンキルスイッチを装備し,外乱発生用に補助アクセル(4.4参照)を装備した.
実験データの取得装置として,実験参加者のペダル操作量及び操作時間などをロータリーエンコーダ(IW社:EC202A100A)からマイクロコントローラボードを介してコンピュータに記録するようになっている.
また実験参加者のペダル操作と車体前方を撮影するUSB接続カメラ(DC社:DC-NCR13U)を装着し実験映像を記録した.

4.4 外乱発生装置について

Fig.4 Auxiliary-Accelerator-and-Micro-Switch

実車実験においては,実験車に実験参加者が実験走行中にストレスを付与するために外乱発生装置を装着した.
これは,実験者が着座する助手席側に補助アクセル(Fig.4参照)を装着して,運転中の実験参加者に告知せずに車体を急加速させる装置である.
またこの補助アクセル装置は,実験参加者からは視認できない位置に装着し,実験者の操作を記録できるようにマイクロスイッチを装着した.
実際の踏み間違いによる交通事故は,運転者が継続的にアクセルペダルを踏下しているために発生する.
このことから補助アクセルによる急加速は,実験参加者の足がアクセルペダル上にあるときに実施するように計画した.
それは実験参加者が実験車をスタートさせる際に模擬の段差(Fig.3参照)を乗り越えて走行しようとするためアクセル操作が必要となったときに実験者が補助アクセルで車体の急加速を実施した.
このとき,実験参加者がどのような反応をするかについてNペダル装着車と従来型ペダル装着車の双方について記録した.
また,この外乱については,実験実施に伴う順序効果が発生するため,実験参加者の乗車の順番をNペダル装着車と従来型ペダル装着車で交互に実施した.

4.5 実車実験結果解析

Fig.5 Individual Subject’s Multiple Accelerator Operation Fig.6 Numbers of Subjects in Misoperations

実験は延べ4日間44名の実験参加者の参加を得て実施され,実験装置などの不具合などによって27名の実験データを有効とした.
実験者は実験中外乱付与後にブレーキを操作するべき時にアクセルの操作を複数回操作した事象を踏み間違い事故に至る契機になり得るものと定義した.
また,アクセル操作とはペダル操作データ上でアクセル操作量の数値が下降から上昇に転じる時を1回のアクセル操作と認定する.
また、このアクセル操作回数は,アクセルペダルの操作データを読み込んで補助アクセルの操作がONとなったときから2秒間40回分の下降から上昇に転じるアクセル操作を数えるプログラムを作成して捕捉した.
有効データ27名中アクセルの複数回操作を行った実験参加者は,従来型ペダル装着車で5名発生し,Nペダル装着車では発生しなかった(Fig.4及び5参照).

Fig.7 Time to operate the brake pedal

また,この27名の有効データでアクセル操作からブレーキ操作を行うまでの踏み替え時間を計測し比較検討した結果,従来型ペダルでの踏み替え時間平均値625ms, Nペダルでの踏み替え時間平均値471msであり(t(27)=2.874,p<.01),Nペダルでの踏み替え時間が短く,有意な差があることが認められた(Fig.7参照).

5. 結論

実車実験において,外乱付与後のアクセル複数回操作という踏み間違い事故に至る契機になると考えられる事象がNペダル装着車では発生しなかったことから,本研究で立脚した仮説の実証になる可能性がある.
すなわち,アクセルの操作方法を従来型ペダルとは異なったものとすることにより,運転者のアクセル操作に対する認識を明確なものにできることをもって踏み間違いによる事故を防止できる可能性がある.

また,Nペダルではアクセル操作からブレーキ操作を行うまでの時間が従来型ペダルに比較して短かったことは,危険を認識してから停止するまでの距離を短縮できる可能性がある.