中華航空機 エアバスA300-622R B1816
2017年7月26日の今日から23年前の1994年6月4日、中華航空(台湾)140便(登録記号B1816、エアバスA300B4-622R型機=2017年現在日本では飛んでいない)は、台北中正国際空港からパイロット2名、客室乗務員12名、乗客256名(うち幼児2名)を乗せて名古屋小牧空港を目的地として飛行してきました。機長のワン・ロー・チは台湾空軍出身で約2年前にボーイング747型機からエアバスに機種変更になりました。軍隊で約5千時間、民間で約3千時間の飛行時間がありました。
エアバス機とボーイング機の違い
さて、ここでボーイング等アメリカの飛行機とエアバス等のヨーロッパの飛行機では自動化について大きな設計思想の違いがあります。それは:
フランスの小咄です。曰く、自動化の進んだ未来の飛行機では、操縦室に入るのは操縦士1名と犬1匹になる。というものです。その心はというと、犬がいるのは操縦士がなにか操縦装置に手を触れようしたら「噛みつく」ためだそうです。エアバスもフランスがリーダー格になって製造している機械ですから、この傾向が随所にあるわけです。つまり、人間を全く信用せず自動化ループからできるだけ排除するという考えなのです。
エアバスはその飛行のほとんどをハイテクコンピューターで飛行制御するようになっています。しかし、例えば着陸モードで飛行していて、急にそれを取りやめて、また着陸モードにしようとした場合、コンピューター自身が混乱して、モードの切り替えができないことがあります。つまり、着陸モードから着陸復行(着陸やり直し)モードにして、さらにまた着陸モードにするということは、設計上「想定」されていないのです。だからすぐに解除できないようになっていました。
これに比較してアメリカのボーイングなどの設計思想は、全く違います。自動装置で飛行していても、操縦桿を動かしたり、操縦桿に装着されている解除装置を操作すれば即時に自動装置の解除ができます。つまり、人間が自動化ループの中心にいる訳です。
画像出典:Wikipedia 中華航空エアバスA300-622型機B1816(事故機)福岡空港にて
画像出典:Wikipedia 墜落現場 名古屋小牧空港滑走路34の脇でした。
事故までの経緯
中華航空140便は、19時58分名古屋空港に近づき、名古屋アプローチ(進入管制)に引き継がれました。次第に高度を下げる間、先行機の後流渦に遭遇してパイロットが声をあげるほど機体が揺れました(コクピットボイスレコーダーの録音から)。副操縦士はこの日操縦担当でした(機長と副操縦士は往路復路で操縦を替わる)。飛行時間1600時間の新米です。あまりに揺れるので自動にするとふらふらするので手動で着陸することにしました。さて、140便は計器着陸方式ILS(方向と高度のガイダンス)の指示を目で見ながら進入を継続、20時13分14秒、着陸準備が整いました。20時14分06秒、ひときわ大きな揺れのときにスロットルを動かして推力調整しようとした副操縦士が誤って「着陸復行モード」レバー(ゴーレバー、下記画像の黒い部分)に触ってしまい(上に引き上げる操作)、モードスイッチが入ってしまいました。機長がそれに気づき副操縦士に注意を促しました。「君、君は今ゴーレバーをひっかけたぞ!(スイッチが入ったぞ)」
画像出典:Wikipedia
揺れのため、ゴーレバーを引っ掛ける
ゴーレバー を入れると、即時にエンジンは上昇して着陸復行(上昇して着陸のやり直しを行うモード)を行うために推力を自動で増加します。このため、140便は進入降下経路から高く外れてしまいました。
機長「君、君、それを解除して」ゴーアラウンドモードのことと思いますが、コクピットで「それ」は拙いです。副操縦士の方は、降下経路に乗せようとして必死に操縦している訳ですから、その時は機長が一言断って自分で解除するべきでした。機長はボーイングからエアバスに移行したばかりですので、ヒョットすると解除の仕方を知らなかったのかもしれません。そのときは思い切って着陸復行すればよかったのかもしれません。無理に着陸しないで。たらればですが。
パイロットと自動装置の力比べ
機長「解除したか?」副操縦士「はい教官(副操縦士は機長を教官と呼んでいました)。解除しました」でも解除されていませんでした。
その結果、機長「(操縦桿を)下に押せ!」副操縦士「はい」・・・・パイロットと飛行機の力比べが始まってしまいました。
機長「わたしがやる、わたしがやる!」機長がオートパイロットを「着陸」モードにいれました。しかし、着陸復行モードは解除されません。機長は着陸モードにすれば着陸復行モードが解除されると誤解していたフシがあります。
自動着陸復行モードの上昇は、水平尾翼のスタビライザー(水平安定板)部分で行います(下記画像参照)。水平尾翼は水平安定板と昇降舵の2つの部分に分かれています。両方とも下記のように動きます。
画像出典:Wikipedia
水平尾翼は「へ」の字形になった
上の画像のように上昇しようとする水平安定板と降下しようとするパイロットの操縦で全体として「へ」の字形になりました。水平安定板と昇降舵の面積を比較すると、水平安定板の方が圧倒的に大きいので当然、飛行機は上昇します。その結果、中華140便は、滑走路端で高度1500フィート(500m)で失速しました。回復できずに墜落。
画像出典:Wikipedia 中華航空140便の降下経路
乗員乗客270名のうち7名が重傷ながら生還できました。何れも主翼付近に座っていた人たちでした。
何故着陸復行モードが解除できなかったのでしょうか?
このときのエアバスA300-622型機の着陸復行(G/A ゴーアラウンド)モードを解除するためには、着陸モードにするだけではダメで次の手順が必要でした。先ず自動で機首の上下をコントロールするV/S(ヴァーチカルスピード)モードに切り替えなければなりません。次に機首方位に関する自動モードLNAV(ラティチュードNAV)に切り替えなければなりません。そのあとでやっと着陸モードに入れることができます。着陸前の忙しい時にこんなこと無理です。
コンピューターソフト設計者の想定外
コンピューターソフトを設計した人は、着陸モードにしてから着陸復行モードになり、また着陸モードにするなんてホントに「想定外」だったのでしょう。しかし、それは起こりました!
自動飛行形態モードのソフトを設計するとき、これでいいかどうか普通パイロットに相談しませんか?
飛行機でも自動車でも自動化装置のソフト設計者は自分が神様になったような気分で「独りよがり」が多いです。
でも必ずソフト設計者が気が付かない、思いつかない自動化に関わる飛行環境や道路走行環境が存在するのです。そのときはワンアクションで自動化装置を解除できなければなりません。この事故は、先ほどのフランス小咄のように「人間」を信じていないところに原因があったのです。
ソフト設計者の想定外で263名の人が犠牲になりました。
ソフト改修 日本の航空事故調査委員会の改修勧告
日本の事故調は、着陸復行モードをワンタッチでできるような改修を事故報告書で勧告しました。
エアバスは、極東の猿がなにをほざいてるというような感覚で改修もしませんでした。大体、飛行機のようなハイテクな乗り物は白人以外操縦してはならないというのが大多数のフランス人の考え方です。
同種の事故がまた!
改修勧告が出されたあとまったく同じような事故がまた中華航空のエアバスA300-600R型機で発生しました。4年後の1998年2月の台北正中国際空港でのことです。霧が立ち込め視程900mほどの中、進入中に降下経路から甚だしく高く逸脱したため、着陸復行を送信してから、どうしたことか高度600m付近で機首角度が42.7度まで上を向き(ほとんど垂直の感覚です)、失速墜落しました。高速道路、人家、養魚場などを破壊し爆発炎上しました。1994年の名古屋空港事故にそっくりの事故でした。
事故調からの是正勧告があっても、どこ吹く風、何もしないエアバスと中華航空。いったい何なんでしょうか?
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