コンピューターのバグと思われる航空事故 その1

18 9月 2016

その事故はわたしが運輸省(現国土交通省)航空事故調査委員会(現安全輸送委員会)航空事故調査官だったときのことです。確か事故の一報がもたらされたのは次の日だったと思います。日本航空の香港発名古屋行706便が乱気流に遭遇して乗員が怪我を負ったという内容でした。首席調査官は管制情報官出身(主にフライトプランや飛行機や空港の運用を扱う部署、管制官ではない)のY調査官を主管調査官に任命しました。これが先ず間違いのもとでした。かれはなにも解らない・・・・。でも日本航空事務部門とは親しい。1997年6月8日午後7時48分に発生した日本航空706便マクドナルダグラスMD11型伊勢志摩半島上空の事故でした。事故の概要は:香港カイタック発名古屋行で名古屋空港に着陸するために伊勢志摩半島上空からオートパイロットで降下中、速度が急激に増加し、パイロットが速度を押さえるため、オートパイロットを速度プライマリー(降下率から切り替えた)にして減速操作、さらにスポイラーを立てたところ、突然激しい機首上げが発生し、それを押さえようとしたパイロットが過度に修正しすぎたため、ポーポイジング運動という、あたかもイルカが水面を跳ねるような運動(激しい上下運動)を約15秒間くりかえし、後部座席を担当していた乗務員が頭にサービスカート(香港免税土産のサービス中で固定されていなかったため 機長はシートベルトサインをONにするところでした。あるいはONにしたばかりだったのかもしれません。降下開始ですから。怪我をした客室乗務員は、急いでカートを固定するところだったかもしれません。運が悪かった)が衝突し重傷を負ったものです(この乗務員は意識が戻ることなく20か月後に死亡しました)。航空事故委員会は機長の操縦ミスと断定した事故報告書を運輸大臣に提出し、検察庁(事故調と警察庁との取り決めによりその是非は別として、事故調査報告書を鑑定書とすることができます。つまり、事故調査報告書は事故再発防止を願って作成しますが、検察は、業務上過失致死傷罪などの犯罪捜査に報告書を使うわけです)はそれを受けて機長に対し業務上過失致傷罪を求刑しました(のち致死罪)。いま思い出してもむかむかするほど悔しいです。2007年名古屋高等裁判所は、機長に対し無罪を宣告しました。しかし、当時47歳であった高本孝一機長は、機長として油の乗り切った10年間を無駄にしたわけです。当時も飛行時間1万時間以上のベテランキャプテンでした。かれはわたしと学部は違いますが同じ九州大学工学部出身で航空大学卒でした。かれの悔しさは痛いほどほどわかります。その辺のいきさつは彼自身の著による『真実の口(筆者註:イタリアの彫刻です)』副題:目を覚ませ運輸安全委員会(出版社不明)に詳しくかかれています。わたしが担当ではないにしろ当の航空事故調査官だっただけに悔しいです。事故後の口述調査では何をいっても事故調は聞き入れてくれなかったと(わたしの同僚です)高本機長は訴えています。既に事故報告書の結論ができているようだったとも言っています。事故の貴重な生き証人なのに。わたしは航空事故調査官として恥ずかしいです。ともあれ、製造当時から様々な同種の事故に揺れていたMD11は、日本航空が10機購入して国際線専用の主力機となっており、機体が欠陥とされたら困る日本航空から何らかの圧力が事故調にかかったとも言われました。だから管制情報官出身の彼がえらばれたのかもしれません。そのときのキャリア出身のW首席調査官というひとも航空局の3変人の一人と言われ、相当な曲者でしたから。自衛隊のC1輸送機の官側の評価をした人で、東大工学部航空工学科出身。さて、その後世界中で同種の事故が続き、みんながみんなあの機体は危ないぞとなって、結局MD11よりも古い型のDC10よりも先に退役してしまいました。日本航空も所有する全てのMD11、10機をUPS(ユナイテッド パーセルサービス=アメリカの郵便物扱い民間会社)に二束三文で売却しました。世界中でもこの機体は、現存する全ての機体(200機中8機が事故で失われました)がルフトハンザの貨物機とフェデラル エクスプレスの貨物機になってしまいました。2016年のいまでも現役の貨物機で飛んでいますが2016年現在次第にボーイングB777F(貨物機)などの切り替わっているようです。トムハンクス主演の飛行機事故で無人島に漂着する映画(キャストアウェイ)も事故機はMD11でした。MD11の基となったDC10でも貨物ドアの欠陥により、数々の重大墜落事故を起こしており、何か呪われた機体という感じもします。そしてその後、2009年3月23日、成田空港でFEDEX80便MD11貨物機は着陸滑走中に横転し大事故となりました。着陸滑走中に横転したのはMD11だけです。また、3件と思いましたが世界中でやっています。

これはわたしの意見ですが、テスラなどの自動運転ポリシーに通じる部分があるので長々と書かせてもらいました。以下、このMD11という機体、当時のB747(ジャンボ機4発エンジン機)よりも燃費を良くするためにエンジンを3発にして、DC10にコンピュータを追加して中途半端なハイテク機にしたものです。さらにCWS(コントロール ホイール ステアリング)という自動車でいうパワステのような機能を追加(自動操縦の一種)したものです。さらにピッチ方向(上下方向)のコントロールをコンピューターを入れて制御するようにしたためできたのですが、燃費節減のため抗力を減らす目的で水平尾翼の面積をDC10の約70%にしてしまいました。当然縦方向の安定性が悪くなりましたが、パイロット操縦の不足部分をコンピューターが補うということでした。結論から言うと、ウインドシアという上昇気流と下降気流の境を通過すると、MD11は、自動操縦と手動操縦(CWSは常時ONにできます)の如何に拘わらず、急に激しいピッチアップに陥るのだと思います。あるいはこのような状態になりそうなときにスポイラーなどを操作すると(ただでさえピッチアップの傾向あり)、引き金を引いたように機体の飛行特性が突然変化し、激しいピッチアップに陥るのだと思います(もっと詳しい説明が必要ですが、あまりに専門的なので割愛します)。このため、オートパイロットを解除する暇もなく、驚いたパイロットは、当然全力で頭を押さえようとして操縦桿を押します(なにかペダル踏み間違い事故の最初の部分に酷似しています)。そのとき、操縦桿を押しすぎてオーバーコントロールとなりますので、また操縦桿をひき、また押しと、ポーポイジング運動になります。そのとき機内では、乱気流に入った時と同じになり、シートベルトをしていなければ頭で天井をぶち破ったりもします。MD11のような長い胴体を持つ航空機では、重心(CG)を中心に先端に行くほどモーメントが大きくなって揺れがおおきくなります。このような運動をPIO(パイロット インディュースド オシレーション)といいます。しかし、きっかけはパイロットではなく、機体自身ですので後にAPC(エアクラフト パイロット カップリング)と呼ばれるようになりました。事故調の名誉のために一言書き加えますが、この事故一筋縄ではいかないと思った事故調は、PIOの関連から一応機体の欠陥を疑い、整備出身のM調査官をカリフォルニア州ロングビーチのマクダネルダグラス社(当時既にボーイング社に吸収合併されておりました)に派遣しました。しかし、みなさんここが大事なところですが、コンピューターのバグは再現実験絶対不可能なのです!わたしは、以前テスラの死亡事故で何故ミリ波レーダーが働かなかったのかという疑問を呈しました。もし、車載コンピューターのバグだとしたら再現はできません。

長々と書いたのには理由があります。この事故は、裁判でも認められたように(※この事故限定です)→「機体の欠陥」から生じました。乗務員7名、乗客5名が受傷しました。うち乗務員1名が後に病院で亡くなっております。このため、検察庁は機長高本孝一氏を業務上過失致死傷罪で起訴しました。本サイトで取り扱っている『ペダル踏み間違い事故』に酷似していませんか? みなさんが仮にペダル踏み間違い事故を起こしてしまい、誰かを受傷乃至は死傷させてしまった場合、刑事犯として交通刑務所に行くことになるかもしれません。あなたは、車体欠陥(ペダル配置及び操作方法)の結果であるとして戦いますか、それとも自分(過失)が悪かったとして交通刑務所に行かれますか? 高本機長は、日本乗務員連絡会議、機長組合。乗員組合その他の支援を受け、カンパを受け10年の長きにわたって戦ってこられました。パイロットは乗務手当がでなければ大した給料を貰えないので、お子さんの教育費もあり、生活費もあり、さぞ苦しかったであろうとおもいます。このことを一番いいたかったのです。ペダル踏み間違い事故を経験したことがない人々にとっては、事故があっても他人ごとです。しかし、この事故はいつあなたの身に起こっても不思議はありません。だからもし、この事故があなたの身に起こってしまったらどうなさいますか? ちょっと蛇足ですが、この幼子を2人残して亡くなった乗務員のご主人にお会いしました。わたしは、事故原因が機体の欠陥を疑わせるものがあるとお伝えしたかったのです。しかし、赤坂の東急ホテルでお会いしたご主人は、『706便の機長には厳罰を望む』とだけ仰って、新車のボルボに乗ってお帰りになりました。いま思えば、わたしの免許証の更新時に安全協会で見せられたビデオで、最愛の我が子をペダル踏み間違い事故で喪ったお母さんが涙ながらに、運転者には『厳罰を望みます』と仰っていた姿とぴったり重なります。わたしには、ぺダル踏み間違い事故の運転者が高本機長に、MD11がAT車に、そして事故調に圧力をかけたかもといわれている日本航空が自動車メーカーに見えてしかたがありません。ただし、ペダル踏み間違い事故には、幸いなことにコンピューターが介在しておりません。だからコンピューターバグもありません。次回以降、続編としてFEDEX MD11成田空港事故を取り上げるつもりです。空港監視カメラに事故の様子が映っています。動画をお見せするつもりです。乞うご期待!

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JAL706便事故機JA8580 出典:Wikipedia

運航機 機体記号 型式 製造番号 愛称 登録年月日 退役年月日
1号機 JA8580 MD-11 48571/552 エトピリカ 1993/11 2002/9 退役(現N272UP)
2号機 JA8581 MD-11 48572/556 ヤイロチョウ 1993/12 2002/7 退役(現N271UP)
3号機 JA8582 MD-11 48573/559 タンチョウ 1994/3 2004/10/12 退役(現N279UP)
4号機 JA8583 MD-11 48574/566 イヌワシ 1993/8/11 2003/5 退役(現N273UP)
5号機 JA8584 MD-11 48575/568 ヤンバルクイナ 1994/9/13 2003/6 退役(現N274UP)
6号機 JA8585 MD-11 48576/574 クマタカ 1995/4/4 2002/11 退役(現N270UP)
7号機 JA8586 MD-11 48577/583 コウノトリ 1994/4/11 2004/8/4 退役(現N278UP)
8号機 JA8587 MD-11 48578/588 ノグチゲラ 1995/6/28 2004/5 退役(現N277UP)
9号機 JA8588 MD-11 48579/599 オジロワシ 1996/4/3 2003/10 退役(現N276UP)
10号機 JA8589 MD-11 48774/610 ライチョウ 1997/3/ 2003/7 退役(現N275UP)

日本航空が所有していたMD11 出典:Wikipedia

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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JAL706便MD11機長 高本孝一氏 出典:m3.com 医療維新より

https://www.m3.com/open/iryoIshin/article/178748/

130812yhp6高本機長が書いた本 『真実の口』目を覚ませ運輸安全委員会 出典:m3.com 医療維新より

http://www.jalcrew.jp/jca/public/safety/pub-706-head.htm

日本乗員組合連絡会議の706便関係報告書のページです。コピーアンドペーストしてみてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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