八尾空港小型機墜落4人死亡事故 機長を書類送検

06 8月 2017

この事故は昨年2016年3月26日16時18分に大阪八尾空港で発生しました。4人乗りの低翼単葉単発小型機ムーニーM20C(JA3788)という機体です。

ムーニーM20C

最初、このタイトルのニュースに接したとき、一番最初に頭に浮かんだことが2つあります。ひとつは、このムーニーという機体はわたしもカリフォルニアで50時間くらい乗ったことのある飛行機で、操縦の難しい飛行機だったとの記憶があります。下の画像をご覧になると判りますが、垂直尾翼が後ろに傾いているのが普通ですが、ムーニーは前に傾いているのが特徴です。また、最高速度が単発機にしては速かったのです(200ノット毎時=360km/h)。車輪が引き込み式であることもカッコよかったのです。わたしの身長は167cmですが、操縦席に座ると体が沈みこみ、計器盤の陰に隠れて前が良く見えないということもありました。クッションをお尻の下に敷かなければなりませんでした。巡航速度が速いということは、着陸速度もまた速いということを意味します。普段乗っていた単発セスナ172M型よりもだいぶ速かった憶えがあります。計器飛行証明取得に使っていた機体ですが、カリフォルニア州オックスナード空港で大失敗をした憶えがあります。

それは、着陸時に後ろから来た定期便(メトロライナー20人乗り)に急かされてアプローチがハチャメチャになり、着陸寸前のフレア(機首引き起こし)が足りなかったので前輪から着地し、随分跳ねてしまいました。落着するのが判っているので、わたしもゴーアラウンド(着陸復行ー着陸やりなおし)しようかなと思ったくらいです(後でお話ししますがこの事故機にも同じことが起こっていました)。スロットルを入れようとするのを教官に止められて(悪あがきといいます)、どっかんと落着しましたが、20年以上経った今でも鮮明に思い出す位激しい着陸でした。前輪から着地したことは、前が良く見えないという特質が関連していることも考えられます(パイロットの飛行機姿勢判断の基礎である地平線が良く見えないということです)。そうです、引き起こしをすると地平線が計器盤の陰に隠れてしまうのだと思います。あとで教官に聞いたら、ムーニーは前輪着地で跳ねた後下手にパワーを入れるとポーポイジング(イルカの海面飛び跳ね運動)に入りやすいので落着したほうがいいとのことでした。

画像出典:Wikipedia 事故機ムーニーM20C JA3788

業務上過失致死傷罪

もうひとつは、搭乗者4人全員亡くなっていますが、それでもなお、機長に業務上過失致死傷罪を適用、送検したという言葉に違和感を持ちました。何故なら、事故の「過失」という部分に人知を超えた「不可抗力」を感じるからです。人が亡くなったり、怪我を負ったりしたら必ず責任の所在が問われます。そして保険の支払い時に等にそれが勘案されるのです。業務上過失致死傷罪の適用にも。しかし、いつの場合でもそうですが、パイロット(勿論ドライバーも)は事故を回避するために必死の努力をします。しかし何をやっても回避できないので事故になってしまいます。何ら科学的な根拠がない、漠然とした考えですが、事故に至るまでの時間は、飛行機の方が自動車に比べて長いような気がします。

画像出典:Wikipedia

画像出典:Wikipedia 八尾空港 東側から進入 RWY27

 

業務上過失致死傷罪 その2

わたしが常々感じていることは、わたしの研究であるオートマチック変速機付自動車(以下AT車)の「ペダル踏み間違い事故防止」に関することです。この事故が発生する原因は、AT車のペダル構造にあり、ドライバーの「過失」を誘発する車体構造になっていることが問題です。ズバリ、ペダルの「踏み換え」をしなければならないところにあります。しかもこのことは、手動変速機付きエンジンのついた自動車であれば仕方がないことだったのです。確かに「ペダル踏み間違い事故」はドライバーの「過失」によって発生します。しかし、ことは人間の本質に関わってきますので、簡単に「業務上過失致死傷害罪」を適用することはできないと思うのです。

運輸安全委員会 航空事故報告書

航空事故が発生すると、国の運輸安全委員会(航空部門)の調査官が現地に出向いて事故調査をし、事故再発防止のために国の公文書である「航空事故調査報告書」を公表します。実は、わたしも事故調査官でした。

2016年3月26日に八尾空港で発生したムーニーM20Cの事故報告書は2017年3月30日に公表されました。

事故報告書を読んでみると、色々なことがわかりました。

まず、この飛行機の機長A(男45歳)は、陸上単発自家用操縦士で、総飛行時間138時間47分というかなり未熟な操縦士だったこと。その他の同乗者3人は全て飛行機操縦資格保持者だったこと。この日はこの飛行機の慣熟飛行のため八尾空港から神戸空港まで飛行し、フルストップランディングの後、また八尾空港に戻る飛行計画でした。往路の座席配置は機長Aが左席、同乗者Cが右席(自家用操縦士資格保持)でした。復路は同乗者Aが左席(総飛行時間279時間48分、陸上単発、陸上多発自家用免許保持 ムーニーM20Cの飛行時間はゼロ)でした。驚くべきことはたかが飛行時間138時間47分という機長が、操縦の難しいムーニーで右席に座ったことです。左席は、機長Aよりも倍の飛行時間とはいえたかが279時間です。しかもムーニーは操縦経験なし。これは無謀です。特定されていませんが、事故時には同乗者Aが操縦していた可能性があるとのことです。多分機体を跳ねさせてしまったのはこの人です。でも、地平線が見えにくいから機首上げには注意してと教えなければなりません。操縦させた機長Aの責任です。

画像出典:Wikipedia

軽飛行機の場合は特に重要なのが、W&B(ウエイト・アンド・バランス)といって、W(ウエイト)は決められた許容離陸重量を超過しないこと、B(バランス)は機体重心が決められた許容範囲の中に入っていなければなりません。事故発生時には、機体重量が52.6kg、CG重心位置が許容範囲から後方に外れていました。八尾ー神戸の往路においては同乗者C(体重:約113.85kg)が右席に座っていましたが、事故発生の着陸復行時には同乗者Cが後席に座っており、体重約半分の同乗者A(68.9kg)が前席にきたことも重心が後ろに下がった原因です。

着陸時には、速度を低くするためにフラップを最大にします。しかし、フラップを下げると揚力中心が大抵後ろに下がり、結局機首上げモーメントが増加します。これはエンジンの出力を上げるとまた、機首上げの力が働きます。この事故の場合には、重心がもともと許容範囲を外れて後ろあり、そこにフルフラップで機首上げ傾向が強まり、さらにフルパワーにしたため制御できなくなったものと思われます。着陸復行をする時は低速からなので、軽飛行機の場合は例外なくフルパワーにします。でも右席にいた人が経験豊富な人だったらパワーオフにしたと思います。落着しても大したことないですから。

この事故は、パイロットミスです。機長がW&Bをチェックしなかったことが直接原因であり、実力もないのに右席に座った機長Aとムーニーの特質を知らないまま操縦した同乗者Aそして同乗者Cが後席に座ったことも寄与しています。

被疑者(機長A)は、死亡のまま、業務上過失致死傷罪で送検されてもしかたがないと思いました。

これはペダル踏み間違い事故の「過失」とは質が違います。

興味がある人は、「運輸安全委員会」でネット検索すればすぐ公式報告書を見ることができます。

http://www.mlit.go.jp/jtsb/aircraft/rep-acci/AA2017-2-2-JA3788.pdf

 

動画出典:youtube

 

動画出典:youtube ランディングの様子カメラの位置が高いが目の位置はもっと低くなります。

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