その後3です。
高級車レクサスが暴走し1人死亡……リコール調査の専門家は「ブレーキの不具合で暴走」と証言した
元特捜検察のエースとトヨタの法廷闘争 #3
村山治氏 文春オンライン
「足が届いたか」が最大の争点
公判の最大の争点は、右足がドアに挟まれて使えなかった石川が、左足でアクセルペダルを踏んだかどうか、だった。
石川側は、左足でアクセルペダルを踏んだ事実はなく、何らかの原因でパーキングブレーキが外れ、車はクリープ現象(シフトをドライブに入れるとアクセルペダルに触れなくても車がゆっくりと動き出す現象)で動き出し、途中でまた何らかの原因でブレーキがかかったが、車はそのまま暴走したと主張。
これに対し、検察側は、「本件車両は、センサー及びコンピュータ内部の制御CPUなどに異常が出た場合、燃料や電気の供給が遮断・抑制されるよう設計されており、車両の構造上、制御CPUなどの異常によりエンジンやモーターの回転数が異常に上昇する(暴走する)ことはない」とし、警視庁交通捜査課交通鑑識係警部補の寛隆司が作成した「鑑定書」をもとに、石川が右足から降車しようとして誤って左足でアクセルペダルを踏み込んだため、車が急発進した、と主張。アクセルペダル裏にあった圧痕も、石川がアクセルペダルを全開に踏み込んだ状態で衝突したことを裏付ける、とした。
石川弁護士の証人として出廷した「リコール調査の専門家」
この日、石川側証人として出廷したのは、元独立行政法人「交通安全環境研究所」(現独立行政法人自動車技術総合機構)リコール技術検証部リコール技術検証官(みなし公務員)の出川洋。
1972年横浜国大工学部機械工学科卒。同年日産自動車に入社。エンジン開発、制動プログラム開発に携わった。その後、排ガス規制強化もあって、車はコンピュータやセンサーの塊となった。そのため「意図しない加速」、つまり、車に原因のある暴走が多発するようになったことを受け、その問題の専門家になった。日産退職後の2011年にリコール技術検証官。16年に退職するまで約50件の調査に携わった。現在は技術コンサルタントを営む。
自動車技術総合機構のホームページでは、リコール技術検証部と検証官の仕事を以下のように紹介している。
「不具合の発生状況を多角的に分析してその原因を探り(略)国内で発生する交通事故や車両火災の中で、車両不具合が疑われるときは(略)必要な検証実験を行い(略)分析調査や検証実験の結果を総合的に検証して不具合の原因を国土交通省に報告」
まさに、今回の暴走事故の原因に民間ベースで肉薄するには、ぴったりの専門家だった。
「ブレーキの不具合で暴走」と指摘
出川は、石川側の依頼で、警視庁の「鑑定書」や車載のドライブレコーダーやEDR(イベント・データ・レコーダー、事故車に搭載されていた事故記録装置)のデータをもとに事故の状況を解析。その結果、事故車は、ブレーキ制御コンピュータなど電動パーキングブレーキの不具合で、ブレーキが解除され、または制動力が弱まり、クリープ現象で発進。その後、急加速し途中でパーキングブレーキがかかったが、そのまま暴走した、との結論に至った、と証言した。
石川の「アクセルペダルを踏んだことはありません。踏み続けたこともありません」との公判陳述を裏付けるものだった。(大野註:踏んでいますって)
出川は、事故車の発進時のドライブレコーダーが記録した車速、加速度を詳細に分析。物理法則に従ってGPS信号によるドライブレコーダーの表示データ自体の誤差を修正した。その結果、鑑定書が急発進の根拠とした加速度表示「0・21G」は「0・1126G」になった。これは、クリープ現象で発進したときの加速度に相当する、とし、警視庁の鑑定書は不正確で信用できないと指摘した。
そのうえで、クリープ現象のような発進が起きたのは、パーキングブレーキの不具合でブレーキが解除されたか、ブレーキの制動力が弱くなったためで、その原因としては、パーキングブレーキシステムの設計ミスが疑われる、と証言。(大野註:そうだとしてもパーキングブレーキが焼けるほど加速したのは間違いないことです)
トヨタが、同社のレクサスNX200tなどについて、ブレーキホールドで停車中にシートベルトを外すなどすると意図せず動き出すことがあるとして「ブレーキ制御コンピュータの制御ソフトが不適切だった」と2016年12月にリコールした事実に言及。タイプやグレードは異なるが、事故車も同じメーカーのブレーキ制御コンピュータを使っている、と指摘した。
さらに、出川は「安全にかかわる車のシステムに不具合があるかどうかの問題軸でとらえると」と断ったうえで、事故車が「ドアが開いた状態で発進したのは不具合といえる」と証言(大野註:運転者がDレンジに入れたままクルマを離れることの方が重大な過失です)。外資系メーカーなど4社の社名をあげ、「シフトポジションがDレンジで停止しているとき、ドアを開けると自動的にシフトがパーキングに切り替わる仕組みを(それらの社は)2014年には採用した。事故は2018年2月に起きた。(トヨタは)著しく遅れている。もし前職にいれば、保安基準対象ではないのでリコールではないが、改善すべきだと国交省に報告する」と述べた。
(大野註)そうかなぁ? それはそれぞれの設計思想ではないでしょうか?
第3回公判に検察側証人として出廷したトヨタ自動車お客様関連部主査の吉田一美は、レクサスLS500hがその機能を採用していないことについて「車両を後退するときにドアを開けて直接目視をされるという使い方をされることもあるので」と証言している。
警察の調査は、事故車のブレーキシステムの「設計ミス」などの観点での調査が不十分で、事故原因は特定されていない、と批判。EDRで衝突前のアクセル開度が100%だった場合、原因はアクセルの踏み込みだと決めつけてほかの調査を怠る傾向があるとし、EDRに頼ることが警察の事故捜査を不十分にしている、とも指摘した。
検察は「専門家の反論意見書を裁判所に提出する」と表明
検察側は、出川の証言の信用性や信ぴょう性について揺さぶりをかけるべく、検証官時代の調査内容について証言を求めたが、出川は「守秘義務」を理由に開示を拒んだ。さらにドライブレコーダーの加速度データについての出川の読み方に問題があるのではないか、と揺さぶりをかけたが、出川は動じなかった。
パーキングブレーキがかかったままの暴走だったことを示すブレーキシューの焼け焦げについて検事が見解をただすと、「現因は、調査していないのでわからないが、クリープで発進したあと、再度、パーキングがかかった。設計ミス、プログラムミスの可能性がある」と答えた。
検察側は攻めあぐね、結局、「もし、石川がアクセルペダルを踏んだとしても、同じようなことは起きる」という出川の証言を引き出すのにとどまった。
検察側は8月末までに、ドライブレコーダーやEDRのデータをもとにした警視庁の鑑定書を補強する専門家の意見書を裁判所に提出すると表明した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その後4に続く。
トラックバックURL