トヨタがハイブリッド、燃料電池車そして電気自動車の特許を公開しました。しかし、特許を公開するということは、必ず自分への利益がなければ普通はしないことです。
何故トヨタはこの膨大な血と汗の結晶を公開したのでしょうか? 次の記事は、わたしと同じような疑問を持った人が書いたようです。
トヨタ ハイブリッド特許公開の真実
●ハイブリッドは賞味期限切れ?
●欧州委員会の調査でトップを取ったトヨタ
さて、前出の寺師副社長の言葉を借りよう。「去年、欧州委員会がオフィシャルに公表した2017年の自動車メーカー各社のCO2排出量の実績値を見ると、トヨタが一番(CO2排出量が)少なくトップなんです。(中略)他社は現在の規制を示す線ギリギリです。しかも今後この規制がどんどん厳しくなっていきます。(中略)これが何を示しているか。結構思い切って言っちゃうと、EVを持っている会社の達成率はいいわけではないってことですよね」
つまり現状で1台もEVを売っていないトヨタが、欧州委員会の環境評価No1.を獲得しており、いうまでもなくその原動力はHVなのだ。
しかし、温暖化ガス規制は今後どんどん強化される。トヨタ自身の読みでは、やがてHVでは規制がクリアできなくなる。そこに到達するのは30年だ。そこから40年まではプラグイン・ハイブリッド(PHV)が主流になる。
PHVは簡単にいえばバッテリー容量を増やしたHVだ。さらにバッテリーにはEV同様コンセントから充電が可能だ。例えば1週間の中で、平日は30キロメートル以下の通勤距離だとすれば、家庭で充電したバッテリーの電力だけで走行できてしまう。休日に遠出する時だけは、バッテリーを使い切ってからエンジンを使ってHVとして走る。するともうこれは現実的にはほぼEVだといえる。
ではトヨタは、HVとPHVというこれから20年近く主流となる技術を、何のために無償開放するのだろうか? その問いに寺師副社長はこう答えた。「トヨタは、今世界のシェアのうち11〜12%くらいしか持っていません。(中略)だけど、地球環境のために普及をさせるっていうことでいくと、これをみんなが一緒になってやっていかないとダメだよねっていうこと」。つまりトヨタには、現在最も現実的な地球環境改善のためのHV/PHV技術がある。それを独占していては地球環境の改善が遅れてしまう。だからトヨタはこの特許を公開するというのだ。
しかも特許を単純に公開するだけではなく、有償とはいうものの、それをクルマにフィッティングさせるノウハウも開示するという。自動車開発はノウハウのかたまりなので、ただ特許や部品を供給されてもそれでクルマは作れない。だからトヨタは技術協力もするのだ。しかも、それを全世界で実現するためにトヨタのリソースだけでは技術支援が行き届かないことが予想されるため、外部のエンジニアリング・コンサルタント会社と協力することも視野に入れている。
現時点で具体的な社名が挙がっているわけではないが、例えばマグナ社やリカルド社、AVL社など世界中には数多くの自動車のエンジニアリング・コンサルタントが存在する。これらの会社に技術供与して、彼らのコンサルティングで世界中の自動車メーカーにフィッティングできる環境を作り出す。そうやって可能な限り早く環境車の普及を目指したいとトヨタは言う。しかもHV/PHVだけでなく、EVやFCVについても同様の方針で普及を目指すと言うのだ。
さて、トヨタが特許公開で何をしようとしているか? どうやって実現するか? は分かった。しかし、大事な競争領域の技術を開放してトヨタは大丈夫なのかという疑問は残る。それはどうなのだろう? 再び寺師副社長の言葉を引用する。
「最新技術といっても、今作っている世代のものをお使いいただくっていうことですから。その世代の1つ先、2つ先っていうのは、僕らはもうやっているわけですよね。だから最新技術を公開したから、もうトヨタは競争力を失うってことじゃなくて、次も、その次もまた頑張れば良い。ある意味自分たちで自分たちを追い詰めているところもあるんですけど、(中略)トヨタだけではたぶんなんとも広がらない。みんなと一緒に協力ができるんだったら提供しましょうよっていうこと」
この発言は(中略)以降はFCVについての発言からの引用だが、考え方は同じだ。とにかく環境を良くすることが国際社会にとって喫緊の課題であると。そうでないと、今以上にクルマは環境の敵になってしまう。EVの普及を待っている余裕はない。ならばまずはHV/PHVから始め、EVが求められるようになれば、その時はEVも、さらに求められるならFCVも同じように技術供与して普及させる。それがトヨタの考えだ。
もちろんトヨタは慈善団体ではないから、部品からも利益を上げるし、フィッティング部分での技術供与からも利益は上げる。ぼろ儲けができるわけではないが、それは環境技術をサステイナブルに開発し続けていくために欠かせない仕組みだ。自動車メーカーに与えられた地球環境保善という使命を、経営的に存続可能な形で走らせることを実現できるならば、仲間が増えるだけなので、トヨタが危機に陥るわけではないのだ。
●トヨタはなぜ変わったのか?
さて、なんでトヨタはそんなに善良な会社になったのか? という疑問をお持ちの方もおられるだろう。そこには日本ではあまり知られていないトヨタの危機があった。
2010年。北米でプリウスが大規模リコールを引き起こし、トヨタに対する公聴会が開かれた。それは我々が思っていた以上に深刻だったのだ。「さしものトヨタもつぶれる」と現地法人はすくみ上がったが、いくら日本の本社に報告を上げても、真剣に受け止めてくれない。その燃え盛る温度感は豊田市までは伝わらなかった。そして手遅れになった。
対応が後手にまわって印象を悪くしたトヨタは、公聴会で何をどう説明しても「ウソをついている」と言われ、一切信用されないという恐怖を味わった。
エンジン制御に問題があるかどうかが争点だったのだが、それは当然日本で設計されており、専門家は全て日本人だ。その日本人エンジニアが日本の都合のためにウソをつくと決めつけられては打つ手がない。
結局一人の米国人女性エンジニアが「私が証言する」と自ら申し出て、証言台に立った。彼女はナビゲーションシステムのエンジニアだったと聞いている。米国人である彼女の熱弁によってトヨタは救われた。
トヨタは日頃の行いがいかに大事かを、公聴会で嫌という程学んだのだ。常日頃から、世のため人のために尽くす姿勢を見せていなければ、土壇場で徹底的に疑われ、何も聞いてもらえない。冤罪(えんざい)を被せられて処刑されてしまうことが起こり得るのだ。
だからトヨタは変わった。仲間を作る。地球環境に貢献する。オープンな会社になる。愛されようと努力しているということを一生懸命アピールしている。そうしたトヨタの変貌にはまだ気づいていない人が多い。
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。
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池田さん、それは違うよ。トヨタはそんなに甘くないよ。わたしが7、8年前九州大学に出張授業に来られたもとトヨタの副社長であり、クラウンの主査を務めた人物に米国でのプリウス暴走について直接話を伺ったことがあります。
というのは、NASAや各大学を総動員してプリウスを調べましたが、なにも悪いところを発見することができず、当時の米国運輸長官ラフード氏が「しぶしぶ」、うちの娘にもトヨタを買いますと悔しさを押し殺して発表したのに、訴訟では1200億円にも上る賠償金を支払いました。何故か?
元副社長は、トヨタはアメリカに育ててもらったようなものだから、賠償金を支払うのは、「恩返しだ」といいました。
ウソです。トヨタは、ペダル配置についてこれ以上掘り返されるがいやだったのだとわたしは思っています。
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