トヨタセンチュリー匠の技

21 4月 2019

トヨタセンチュリー、匠の技。このクルマは、クルマというより工芸品です。

CARVIEWの記事から:

2019.4.5

コレは凄い! トヨタ「センチュリー」匠のスゴ技光る驚きの制作過程とは

■トヨタ自動車東富士工場で出会った7つの驚きとは

新元号も「令和」と決まり、あとは新天皇の即位式を待つばかりという今日この頃。そんな皇室イベントには必須となるクルマといえばトヨタの誇る「センチュリー」です。天皇陛下のお乗りになる「センチュリーロイヤル」は特別仕様車ですが、その量産型と言えるのが「センチュリー」です。先だって、そんな「センチュリー」を生産するトヨタ自動車東日本の東富士工場のメディア向け取材会に参加することができました。

前々から、「トヨタの中でもセンチュリーは特別で、作り方も普通ではない」と聞いていましたが、取材してみれば確かに驚くことばかりでした。今回は、トヨタ自動車東富士工場で感じた驚きのポイントを紹介します。

驚きのポイント1:工員ではなくクラフトマンが作る

2019年に21年ぶりのフルモデルチェンジを行い3代目となった「センチュリー」。1967年に発売した初代モデルから現在まで、皇室も利用する国内最上級のショーファーカーとして歴史を歩んできました。そのためクルマの生産にかかわるスタッフにも特別な人が選び出されています。

センチュリーの生産に関わる人は最低20年以上生産の現場で働いており、その中でも腕前を認められた人だけがセンチュリーの生産に携われるのです。しかも、選び出された後も1年ほどは研修員扱い。それほどの技量が求められるのです。そのため社内ではセンチュリーを作る人は「工員」ではなく「クラフトマン」。工場も「センチュリー工房」と呼ばれます。

黒いエプロンをしているのも特徴でしょう。センチュリー生産に携わるクラフトマンは、ほんの数十名という精鋭。作る人も特別です。工房内には、クラフトマンによる手作りの鳳凰が誇らしげに飾られていました。

驚きのポイント2:わずか2台の溶接ロボットでボディを作る

センチュリーの販売台数は月に50台ほど。それほどに少ないのですから、生産方式も普通とは違います。通常、月に何千台、何万台も生産する自動車の工場は、建屋の中は機械音や溶接音などが満ち溢れ、隣の人との会話もままなりません。ところがセンチュリーの工房は、ひっそりという表現が似合うほど静かなところでした。

鉄板を溶接してボディ本体を作るところには、溶接ロボットがわずかに2台でベルトコンベアーさえありません。以前見学した軽自動車の工場では、数十台のロボットがぎゅうぎゅうに並べられていました。それと比べると、なんとのどかな風景なのでしょうか。

向かい合った2台のロボットを中心に、ボディを設置した冶具が台ごとにゆっくりと周回します。2台のロボットの前をグルグルと何度も台車が通りすぎ、そのたびに少しずつクルマの形に仕上がってゆきます。ちなみに、ボンネットなどのフタものを作るロボットは別に3台。プレス部門もプレス機はわずか1台でした。

■センチュリーの塗装は7層 塗装工程だけで一週間かかる

驚きのポイント3:手作業の修正が細かすぎる

センチュリーのボディ横には、フロントからドアを経て、リアまでまっすぐなプレスラインが入っています。ところが、そのラインはただの一本線ではありません。1cm弱ほどの幅があり、日本古来の「几帳面」と呼ばれる角の処理となっています。ただし、機械で角を作ったままだと微妙な凹みが残ってしまうそうで、ほかにあるラインも角をきれいにする必要もあるとか。

そのため、ボディは最後に手作業で仕上げられます。専門のクラフトマンが手作業によって叩き、グラインダーで磨く、まさに職人芸です。これができる人間は、わずか3名しかいないというのも驚きです。

そしてボディが完成したら、最後にドアの取り付け角度の修正です。プレスラインがまっすぐになるように、ドアのヒンジの部分を調整します。見ていると、実際には数ミリのズレが。これは、後に内装材を取り付けると重量でドアが下がるので、それを見越しているためとか。また、ボディとドアの隙間は3.5mmで、これはトヨタ最小の数値です。この修正とチェックだけで1時間もかかるそうです。

驚きのポイント4:通常のボディ塗装は4層のところ7層

通常の量産車の塗装は、4層構造になっています。ところがセンチュリーのブラック塗装(エターナルブラック「神威」)は7層構造。普通は「電着」「中塗り」「ベースカラー」「クリア」で完成です。ところがセンチュリーは、その上に「ベースカラー」「カラークリア」「トップクリア」の3層をプラス。いってしまえば普通の塗装を2回行うようなもの。

しかも2018年の新型車からは、色がついた「カラークリア」を採用しています。粒子の細かい染料が入っているため、光を反射にしにくくなります。つまり、より黒黒とした色になるのです。センチュリーといえば黒。その黒にとことんこだわった塗装なのです。

驚きのポイント5:塗装ブースから出てくるのに1週間もかかる

通常の塗装は4層のところ、7層も塗装するセンチュリーでは塗装に時間がかかります。しかも、途中で1時間かかる水研を3回し、仕上げにもバフ研磨を行います。水研とは、水を流しながら塗装面をきれいに研磨するというもの。バフ研磨は、仕上げとして文字通りに鏡のようになるまで、表面を磨きあげます。

もちろんこれらの研磨作業は手作業。これも、できる人は、4名+訓練中2名のわずか6名しかいません。仕上がった塗装面の「ツヤ感」「肌の美しさ」は世界最高峰レベル。ピカピカのCピラーに写る自分の姿を見て、ネクタイを直すのがセンチュリーに乗るVIPのお約束とか。それほど塗装にこだわっているため、1台のセンチュリーにかかる塗装時間は約40時間。つまり1日8時間の作業だと、月曜にスタートしてから金曜まで、約1週間もかかってしまうのです。

■普通のクルマでは考えられない拘りのもと生まれるセンチュリー

驚きのポイント6:組み立てラインは、わずか3台ほどの短さ

塗装が終わったボディは、エンジンをはじめ、シートや内装材などの部品が組み立て工程で取り付けられます。普通の量産車では、ベルトコンベアーに乗った車両にたくさんの工員が流れ作業で部品を取り付けていきます。ところがセンチュリーの組み立て工程にベルトコンベアーは無く台車での移動です。台車の上にセンチュリーが載せられており、しかも移動は人力。

組み立てラインの端から端までほんの数十メートルしかなく、車両は3台しか置けません。こんなに短いラインは、少数生産スポーツカー「LFA」や燃料電池車「ミライ」くらいでしょうか。しかも組み立てに係るスタッフは、やはり6名のみ。2300点にも及ぶ部品を、丁寧にじっくりと時間をかけて取り付けます。

そんな丁寧さの象徴が「ヒストリー・ブック」です。これは初代センチュリーから続くもので、生産にかかわったクラフトマンが、1488項目もの品質確認を作業中に書き込んでいくものです。1967年の初代モデルから、すべてのセンチュリーに対してヒストリー・ブックが保存されているのです。 驚きのポイント7:人工太陽まで使う異様に厳しい検査

クルマができ上がると、最後に行われるのが完成車検査です。そこにはセンチュリーならではの特別な検査がありました。それが「面塗装品質確認場」です。100本以上の蛍光灯と6つの人工太陽灯で、できあがった車体の塗装面をチェックします。

ボディに写り込む蛍光灯の光は、驚くほどにくっきりとしています。ここでいろいろな角度から塗装面を見て、塗装面のくすみなどを探し出します。これにかける時間は約90分。普通ではない特別な製品とはいえ、ここまでやるとは驚くばかりです。ちなみにセンチュリーの象徴である鳳凰のエンブレムは手作りによるもので、完成までに1か月半かかるとか。

トヨタの中でも特別な存在というセンチュリーは、やはり作り手の気合も普通ではなく特別なものでした。皇室はもとより、一流の人を乗せるために作られたクルマは、生産過程から特別な存在だったのです。

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