圧縮着火、ディーゼルじゃないよガソリンだよ

08 2月 2019

みなさん、あのマツダがまたやりました! ディーゼルエンジンじゃないのに圧縮着火とは?詳しくはオートックワン、次の記事から:

マツダが実用化に成功した圧縮着火エンジン搭載車を早くも試乗!次期型アクセラを示唆か

「EVの拡大=内燃機関の終焉」という論調は早計

昨今、ディーゼル推しだった欧州メーカー勢がこぞってEVへの移行をアピールしている。フランスとイギリスは2040年以降ガソリン/ディーゼル車の販売を終結させる方針を固めたと発表するなど、自動車業界に大きな変革が生まれようとしている。

一般メディアでは「内燃機関の終焉」などと騒がれているが、ちょっと待ってほしい。現実問題、どの自動車メーカーもEVの開発に非常に熱心だか、バッテリーの性能、航続距離、そしてインフラの問題など様々な課題は山積みである。

国土が狭く自動車以外の交通網が発達している日本ですらそうなのだから、自動車が「生活の足」であり「命を繋ぐ存在」である海外では、正直言うと今から20年ちょっとで「オール電化」になるとは到底思えない。恐らく、どのメーカーも宣言してはいるが、現実的には当面は「内燃機関+電動化」がメインストリームとなるわけだ。

マツダが見る内燃機関の未来

つまり、今後も内燃機関は存在するわけで、これからも進化させる必要がある……と言う事を意味している。そこに徹底してこだわるのがマツダで、内燃機関の理想を追求したスカイアクティブ技術をアピールしている。中には「時代に逆行している」などと言う人もいるが、それは大きな間違い。マツダも将来的にはスカイアクティブと効率的な電動化技術と組み合わせて導入することも発表。

つまり、最終的には他の自動車メーカーと同じ流れでだが、「内燃機関は電動化までの繋ぎ」と考える他社に対して、マツダは「内燃機関にはまだ未来がある」と言う考えを持っているのだ。

これまでマツダは世界一の圧縮比14.0を誇り、燃費を15%/低中速をトルク15%改善したガソリンエンジン「スカイアクティブG」、世界一の低圧縮比14.0を誇り、燃費を20%改善、高価なNOX後処理装置なしでも世界各国の厳しい排ガス規制をクリアするディーゼルエンジン「スカイアクティブD」を市場投入しているが、ユーザーへの提供価値……と言う意味で見ると「一長一短」である。

例えば、ガソリンエンジンは伸びの良さ/レスポンス/排気浄化性に優れるが、応答性/燃費/トルクに課題、逆にディーゼルは応答性/燃費/トルクが優れる一方で伸びの良さ/レスポンス/排気浄化性は課題がある。

“SKYACTIV-X”試乗レポート

しかし、ガソリンとディーゼルのいい所取りの内燃機関は存在する。それは内燃機関の究極の姿と言われる。ガソリンと空気の混合気をディーゼルのようにピストンの圧縮によって自己着火させる「圧縮着火(Conoression Ignition)エンジン」だ。

これまで世界の自動車メーカーで開発が進められ、メルセデス・ベンツの「ディゾット(ディーゼルとオットーサイクルの造語)」は自動車メディア向けに試乗まで行なっているが、まだ実用化レベルには辿りついていない。

そんな中、マツダは2017年8月8日に開催された「技術開発の新長期ビジョン説明会」の席で圧縮着火エンジンの実用化に成功、その技術を盛り込んだ次世代エンジン「スカイアクティブX」を発表した。その後、8月下旬にドイツで「グローバル次世代技術フォーラム」と言うイベントを開催され筆者も参加。スカイアクティブXを搭載するテストカーに試乗することができたので報告しよう。

“内燃機関の究極形”圧縮着火エンジンとは

発明されてから長い歴史がある内燃機関だが、その進化を要約すれば“熱効率”を高めることだった。つまり、同じ量の燃料を燃焼させた時に大きな仕事を得ることができるかがポイントである。

では、熱効率を上げるにはどうしたらいいか?

それは「圧縮比を上げる」、「比熱比を上げる」だ。マツダはすでにスカイアクティブGで世界一の圧縮比14.0を実現しているが、比熱比を上げるためには?

燃料に対する空気の比率を大きくする(=リンバーン)が有効だが、火花点火だと火炎伝播ができず燃えなくなる。しかし、ガソリンを軽油みたいに圧縮着火できれば、理論空燃費を遥かに超える薄さ(スーパーリンバーン)でも燃焼可能になる。

これが圧縮着火エンジンは究極の内燃機関と呼ばれる所以だが、実用化に大きな壁がある。それは圧縮着火による燃焼可能な回転・負荷が限られていること。そのため圧縮着火と火花着火を併用する必要があるが、その切り替えが非常に難しいのも大きな課題である。

しかし、マツダは独自技術「SPCCI(スパーク・プラグ・コントロールド・コンプレッション・イグニッション=火花点火制御圧縮着火)」により、圧縮着火燃焼可能な回転・負荷を拡大しながら、燃焼の切り替えの完全な制御に成功したのだ。

これを実現させたキーワードは、何と圧縮着火では不要なはずの「スパークプラグ」だった。火花着火の領域で“仕方なく”使われていたスパークプラグを逆に圧縮着火タイミングのコントロールのために使用……と言う逆転の発想を用いたのである。

更にシリンダー内の混合気分布偏在制御や異常燃焼を制御するためのリアルタイム補正や、瞬時に異なる濃度の混合気をミキシングできる超高圧燃料噴射システム(直噴ガソリンエンジンの約2倍~2.5倍)などの様々なブレイクスルーの結果、冷間時や高回転域を除くほぼ全域で圧縮着火を可能にしたという。

実際にスカイアクティブXのエンジン単体を見せてもらったが、外から見て解る特徴は、「筒内圧センサ」、「高圧燃料系」、「高応答エア供給機(スーパーチャージャー??)」程度で、それ以外は正直“特別”なエンジンである雰囲気はほとんどない(笑)。ちなみに、このエンジンのボア×ストロークはスカイアクティブG-2.0Lと同じで、圧縮比は15だ。

SKYACTIV-X、まずは動かしてみよう!すべてはそれからだ

試乗は艶消しブラックに塗られたマツダ3(アクセラ)がベースのテストカーでトランスミッションは6速MT/6速ATの2タイプ。試乗はドイツ・フランクフルト市内から北へ30分ほど走った所にあるオーバーヴァゼルと言う閑静な街に位置する、マツダの欧州開発拠点「MRE(マツダR&Dヨーロッパ)」を拠点に、市街地からアウトバーンまで様々な走行環境が試せる約1時間のコースだ。

走り始めての第一印象は、「あれっ、意外と普通!!」だった。アクセルを踏んだ際の初期応答性の良さはディーゼル、低中速の自然なトルク感の盛り上がりはライトプレッシャーターボ、そして高回転まで綺麗に吹け上がる伸びの良さはガソリンNAと、まさにガソリンとディーゼルのいい所取りと呼ぶのがふさわしい性格である。

細かいことを言えばラフなアクセル操作時に「カリカリ」と言うノッキング音や失火しているような燃焼の谷間などを感じたが、それ以外は何も知らされなければほとんど気にならないレベル。常用域だけでなくアウトバーンでは全開加速や150km/hオーバーでの高速巡航も行なったが、加速時の力強さはもちろん、最近マツダが熱心に提唱する「躍度」に関しても、現状の状態でもスカイアクティブG-2.0Lよりも高いレベルにあるように感じた。

ある開発スタッフは「やっと車両に搭載できた……と言う状態で、マッチングやチューニングなどはほとんどしていない」と語るが、それを差し引いても完成度は高い。

また、少しだけ低音を効かせた乾いたエンジンサウンドや、レッドゾーンまでストレスなく綺麗に滑らかに回る感じなど、官能性に関わる部分に関しても「いいね!!」である。いや、むしろチューニングを何もしていない素の状態でこのレベルであれば、商品化の時は……期待が更に高まった。

現時点でこの燃費ならば、あるいは・・・!

燃費は、アウトバーンをかなり元気に走らせたペースで6.5L/100km(15.3km/L・6速MT)、日本の高速道路並みのペースで走らせたペースで5.3L/100km(18.8km/L・6速AT)を記録。ちなみに同条件でスカイアクティブG-2.0Lを走らせた時と比較すると、前者が13.5%、後者が17.5%と燃費性能も優れる。実は燃費計測は試乗時に何も知らされておらず、結果的に「気持ちいい走り」でも「燃費」が犠牲にならない事を証明したのである。

マツダはこのスカイアクティブXをスカイアクティブG、スカイアクティブDと合わせた 「3本柱」として活用すると語るが、個人的には仕向け地やモデルによっては、スカイアクティブXのみの戦略もアリだと思う。

新世代プラットフォームに“マツダの個性”が見えた

実は、今回試乗したマツダ3(アクセラ)のテストカーはスカイアクティブX以外に、新世代プラットフォームが採用されている。

人間の本来持つ能力を最大限に活かした「究極の人馬一体」を目標に、人間のバランス保持能力を最大限発揮させるために車両全体をコーディネイト。キーワードはバネ上と一緒に動く「シート」、遅れをなくする力の伝達を行なう「ボディ」、そしてバネ下からの入力を滑らかにする「シャシー」の3点だ。

シートは取り付け部から骨盤までの入力エネルギーを遅れなく滑らかに使えるために、シート各所の構造が見直し。ボディは剛性バランスや力の流れ方まで考慮し、応答遅れを減らす「多方向の環状構造」。そしてサスペンションはバネ上へ伝える力を時間軸で遅れなくコントロールするために、サスペンション作動軸やタイヤの上下バネ低減、上下入力を早期に増加させるアーム角拡大などを実施。

※NVH=Noise・Vivration・Harshunessの略。それぞれ原因の異なる騒音や振動のことを指し、総じて自動車の快適性を推し量る評価基準である。

その走りはディーゼルモデルの「重さを活かした落ちつきのある乗り味」とガソリン車の「軽快でキビキビした乗り味」の融合。さらに17インチの「しなやかさ」と19インチの「シッカリ感」の融合と、何ともキツネに摘まれたような不思議なフィーリングだった。

試乗後にビックリしたのは、リアサスペンションがトーションビームだったこと。恥ずかしながら、下回りを覗くまで気が付かなかった。これはコスト低減ではなく、電動化時代に向けバッテリー搭載のためのスペースを確保するため秘策なのだろうか?

フットワークは、ここの技術がどうこう……と言うのではなく、全体のバランスが整えられていたのが記憶に残った。つまり、プラットフォームの存在を忘れドライビングに集中できる環境に仕上がっている証拠だ。恐らく、操作に対するクルマの動きと人間の感覚にズレがないこと、そしてドライビングに違和感がないことが、マツダの目指す“理想の走り”なのだろう。現在発売中のスカイアクティブ商品群は「澄んだ水」のようなイメージだが、次世代プラットフォームには“マツダの味”が少し感じられたような気がする。

フットワークは、ここの技術がどうこう……と言うのではなく、全体のバランスが整えられていたのが記憶に残った。つまり、プラットフォームの存在を忘れドライビングに集中できる環境に仕上がっている証拠だ。恐らく、操作に対するクルマの動きと人間の感覚にズレがないこと、そしてドライビングに違和感がないことが、マツダの目指す“理想の走り”なのだろう。現在発売中のスカイアクティブ商品群は「澄んだ水」のようなイメージだが、次世代プラットフォームには“マツダの味”が少し感じられたような気がする。

また、NVHも無音のような静けさとはちょっと違うが、常用域と高速域での会話明瞭度の差がほとんど変わらない上に、外観はほぼマツダ3なのだが、風切り音まで上手く抑えられている事に驚いた。

スカイアクティブXと次期アクセラの関係

実は全面刷新されたスカイアクティブ商品群が出揃った時、今後マツダはこれらをどのように進化させていくのか正直心配だったのだが、今回未来の一部を体感したことで、マツダの「攻めの姿勢」と「軸にブレがない」事が解って安心した。

今回体感した「スカイアクティブX」と「次世代プラットフォーム」は、マツダの次世代技術導入プランでは「2019年に市場導入」と記されている。気になるのは「どのモデルから採用されるのか?」だが、当然全面刷新のモデルに導入されるのは間違いない。スカイアクティブXの導入とフルモデルチェンジのタイミングがドンピシャなのは「アクセラ」だと予想する。現行モデルは2013年に登場、2016年に大幅改良を実施しており、後2~3年でフルモデルチェンジと考えると……。

ちなみに技術開発長期ビジョン説明会で配られた資料の中には、他社のダウンサイジングターボとの比較説明用に現行アクセラとハッチバック車のポンチ絵が記されているが、今回のテストカーも含めてアクセラばかり登場するのが気になって仕方ない。

アクセラはマツダの最量販車種、つまりマツダのエースである。そのアクセラが属するCセグメントはVWゴルフを筆頭に世界の強敵が出揃う激戦区。そこでガチンコ勝負をするためにも、次期アクセラがスカイアクティブX&次世代プラットフォーム採用第1弾にふさわしい一台だと思うのだが……。

筆者プロフィール : 山本 シンヤ

自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車雑誌の世界に転職。2013年に独立し。「造り手」と「使い手」の両方の気持ちを“解りやすく上手”に伝えることをモットーに「自動車研究家」を名乗って活動をしている。西部警察は子供時代にリアルでTV放送を見て以来大ファンに。現在も暇があれば再放送を入念にチェックしており、当時の番組事情の分析も行なう。プラモデルやミニカー、資料の収集はもちろん、すでにコンプリートBOXも入手済み。現在は木暮課長が着るような派手な裏地のスーツとベストの購入を検討中。

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マツダさん。すごいよ~!

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