AT車暴走事故防止の決定打「ナルセペダル」が普及しない理由(by 九州大学名誉教授松永勝也先生)

08 6月 2017

わたしは九州大学で博士号を取得中です。分野は工学、人間科学あるいは情報工学です(自分で選択可能です)。ここで研究を続けられるきっかけを作ってくださったのが九州大学名誉教授松永勝也先生です。わたしの恩師です。

この松永先生の踏み間違い事故に関する理論は次の通りです。

AT車暴走事故防止の決定打「ナルセペダル」が普及しない理由

 

ダイヤモンド・オンライン

岡田 光雄

 

様々な技術の進化により、車の安全性能は現在も進化を続けているが、それでもなくならないのがアクセルとブレーキの踏み間違いによる事故。しかし、実はこの誤操作事故を防ぐための技術は、すでに25年も前に開発されている。本来であれば“世紀の大発明”と呼ばれてもおかしくないナルセペダルだが、何故浸透しないのか。九州大学名誉教授で「事故なき社会株式会社」取締役の松永勝也氏に聞いた。(清談社 岡田光雄)

踏み間違い事故が多発するオートマ車の構造の問題点とは

 このところ、アクセルとブレーキの踏み間違いによる事故のニュースが多発している。

 52日、大分市で病院の1階ロビーに車が突っ込む事故が発生。16日には群馬県太田市でコンビニに、21日には京都市で民家に車が突っ込む事故が起きている。交通事故総合分析センター(東京)によると、同様の事故は2005年~15年までに年間50007000件発生している。

 そもそも何故、踏み間違い事故が起こるのか。その要因のひとつと言われるのが、マニュアル(MT)車に乗る人口が減少したことだ。日本自動車販売協会連合会(『新車登録台数年報』2016年)によると、15年に販売された新車2391404台のうち、MT車はたったの39331台(1.6%)。市場の人気は、運転が簡単なオートマ(AT) 車が圧倒的だ。

「一昔前に流行ったMT車の場合、アクセルとブレーキの他にクラッチとの連携操作が必要だったので、そのことが事故防止に貢献し、踏み間違いによる事故は問題になるほど発生していませんでした」(松永氏)

 AT車のアクセルとブレーキの構造には、「運動生理学」上から見て問題があるという。聞き馴れない言葉だが、これは人間が運動をする際に生じる身体の機能や構造の変化を研究する学問のこと。

「人間は驚いた時に逃げるための準備反射、すなわち“踏ん張る”動作が発生するので、ペダルに足が乗っていれば、それを踏み込む状況が発生します。ブレーキペダルに比べてアクセルペダルを踏む回数ははるかに多く、同じ動作を繰り返すに従って、アクセル操作の方がより反射的に素早くできるようになってしまいます。このメカニズムによって、事故に遭いそうな場面で、ブレーキでなくアクセルを踏んでしまう場合があるのです。これが、ペダルの踏み間違いの発生メカニズムの1つといえます」(松永勝也九州大学名誉教授)

 自動車を運転する上では、アクセルペダルを踏み続けざるをえず、言い換えれば、ペダルを踏み間違えるための練習を普段からしているようなもので、解決策はないように思える。しかし、松永氏は、ナルセペダルであれば、踏み間違い事故を防止できる可能性が高いという。

 ナルセペダルは熊本県にある有限会社「ナルセ機材」が開発した製品。アクセルとブレーキがひとつになったもので、正式名称は「ワンペダル」となる。

 このペダルの特徴はアクセル操作にある。右足をペダルに乗せた状態で、踏めばブレーキがかかり、ペダル上の足元を右にずらすと発進する。

 ただし、ずらすといっても足首を右に曲げるのではなく、ペダルに足を乗せた状態のまま右ひざを外側に開く。すると、足首も勝手に右方向に向くはずなので、走行中はその状態をキープする恰好だ。アクセルは膝を開き、ブレーキは踏み込む。実際にその動作をしてみれば分かるが、足への負担も少なく無理のない姿勢なので、長時間の運転も可能だろう。

「ナルセペダルでもアクセルとブレーキの操作を間違えてしまう場合がありますが、仮に間違えたとしても、ペダルの踏み替えが必要ないのでブレーキ操作を素早くできます。また、びっくりした場合、従来車のアクセルペダルを踏むという反射的動作は、ナルセペダルではブレーキ操作となるので、事故に遭う前に停止できるというメリットがあります」(松永氏)

<安全性に優れたナルセペダルが普及しない理由>

 ナルセペダルを手に入れる方法は簡単だ。ナルセ機材に電話で注文すれば、わざわざ熊本にある同社に自動車を持ち込まずとも、自宅から最寄りの自動車販売(整備)店にペダルを発送してもらえ、整備士が取り付けてくれる。

 値段は、最もオーソドックスなシングルタイプ(右足操作用)を販売店で取り付けた場合、基本価格は216000円(税・取付費込※同社持ち込み取付の場合は183600円)。同社のある玉名市では数年前から市民がナルセペダルを取り付ける際に助成金(1台あたり5万円)を出しており、また身体障害者手帳保有者には、自治体による最大10万円の助成金制度(各自治体により条件が異なる)もあるという。

 助成金対象製品ということは、少なくとも国や地方自治体から安全性のお墨付きを得ているといえる。たった20万円前後で命が助かるならば安いものだ。

 にもかかわらず、何故ナルセペダルは普及しないのか。

 まずその理由として、大手自動車メーカーが、冒頭で言及した踏み間違い事故の統計に、そこまで危機感を持っていないということが挙げられる。警察庁によると、16年の交通事故発生件数は全国で499232件だった。そのうち踏み間違い事故を6000件として計算すると、全体のわずか1.2%に過ぎない。たったそれだけの事故のために、全ての自動車の仕様を変えるのは採算が合わないというのが実情だろう。

大手メーカーがワンペダルに踏み切れないのはなぜか

「これまで自動車業界では、踏み間違い事故は気をつければ防止できるという認識でした。それに、もし仮にナルセペダルが普及した場合、運転者が操作になれた後、従来車を運転した際に操作方法の違いから事故が起きるかもしれないし、従来のペダルが古式の欠陥品のような扱いになってしまうかもしれない。そうなると、市場の動きも変わってくるので、大手メーカーにしてみれば本腰を入れてワンペダル事業に乗り出せないという面もあるのでしょう」(松永氏)

 また、消費者心理としても、ナルセペダルの操作に慣れることができるのかという不安もあるのだろう。特に高齢者の場合、これまで何十年と続けてきた習慣とは違う新しい動作が必要となるため、慣れるまでに時間がかかるかもしれない。しかし、前述のように、例えとっさの時に人間の反射的動作である踏み込む動作をしたとしてもブレーキがかかるだけなので、惨事になる可能性は低い。

 松永氏は、ナルセペダルが普及するひとつのシナリオとして、海外からの逆輸入を挙げる。

「自動車メーカーに限らず日本企業は、既存のものを新しく変化させることに慎重です。しかし、欧米がこのペダルを採用して浸透すれば、日本のメーカーも採用せざるをえないでしょう」(松永氏)

 ナルセ機材の荒田晃慎氏によれば、「今年に入ってからの動きとして、中国・韓国・台湾でワンペダルを販売したいという注文がきています」。海外での販売も視野に入れているといい、今後、ナルセペダルの特許が切れれば、さらに後追いの海外企業勢が続くことが予測される。

 アクセルとブレーキの踏み間違い事故は、自分たちの命に直結することである。こんな重要なケースでも “欧米神話”の力を利用してしか事態を脱却できないのだとすれば、日本人は少々、情けないともいえる。

日本人が情けないかどうかはひとまず置いといて、松永先生の理論でたったひとつわたしとは違う部分があります。

それは、ペダル踏み間違いが発生する『原因』です。松永先生は、以下:

「人間は驚いた時に逃げるための準備反射、すなわち“踏ん張る”動作が発生するので、ペダルに足が乗っていれば、それを踏み込む状況が発生します。ブレーキペダルに比べてアクセルペダルを踏む回数ははるかに多く、同じ動作を繰り返すに従って、アクセル操作の方がより反射的に素早くできるようになってしまいます。このメカニズムによって、事故に遭いそうな場面で、ブレーキでなくアクセルを踏んでしまう場合があるのです。これが、ペダルの踏み間違いの発生メカニズムの1つといえます」(九州大学名誉教授松永勝也先生)

松永先生のお考えは、運転者は咄嗟のときにアクセルとブレーキを踏み間違えるというものであり、それが本形態の事故の原因とされています。

わたしは運転者は咄嗟のときほどアクセルとブレーキを踏み間違えないとする理論です。逆に運転者は何でもない状況のときに『踏み換え忘れ』から本形態の事故に至るという考え方です。その根拠は:

米国ノースカロライナ州警察データベース(2005-2007)事故件数:2,408 より

事故走行前操作1 20171.23

本形態の事故2,408件は何でもない状況で発生しています。

わたしのペダル踏み間違いの発生メカニズム理論は次の通りです。これは本Websiteのトップページにも掲載されています。

わたしはこの事故を3つのステージに別けて考えています。

<第1ステージ>

この事故が発生する直接のきっかけは、ペダルの踏み間違いですが、もっと突き詰めて言えば、『ペダル踏み換え忘れ』ではないかと考えています。この事故の96%は特段緊張する場面ではないところで発生しており、停止乃至は減速するためにアクセルから足を踏み換えてブレーキを踏むところで発生しています(米国ノースカロライナ州警察データベース2012年より)。

<第2ステージ>

ブレーキを踏む強さでアクセルを踏めば、クルマは必然的に予期しない突然の急加速に入ります。こうなると人間は死の恐怖を感じ多大なストレスを受けます。クルマの運転を司る脳の部分は、前頭葉の中にある前頭前野皮質という部分で実施しており、この部分はストレスに極めて脆弱で、すぐ機能不全を起こします。

<第3ステージ>

一旦、前頭前野皮質が機能不全を引き起こすと、人間の生理的反射運動(英ポーツマス大学ジョンリーチ博士)として『機能不全を引き起こす直前の行動を継続する』ようになります。すなわち急加速から物理的なのけ反り現象が発生し、それに伴う踏ん張り現象も加わってアクセルをさらに強く踏み続けることになります。

そこで、このような交通事故を防止するためには、アクセルとブレーキを操作する際に『ペダル踏み換えを必要としない』構造にすることがこの種の事故を防止する最も有効な手段であるとの結論に達しました。

そして、暴走時には脳が『機能不全』に陥っている証拠として:

AT車が暴走を開始したら、クルマを停止させる手段として、誰でもすぐ脳裏に浮かぶのは:

1.エンジンを停止する

2.ギアをニュートラルにする

どちらも簡単な操作です。しかし、踏み間違いを起因とする暴走状態においてはこのどちらも操作不能です。なぜなら運転者は脳の『機能不全』に陥り完全に考える力を失っているからです。

さてみなさんはどうお考えになるでしょうか?

ただこの発生原因についての意見の違いはさておき、防止方法については意見が一致しています。松永先生は『鳴瀬®ペダル』わたしは『手動スロットル』と『左足ブレーキ』です。

画像出典:Wikipedia ナルセペダルと九州大学松先生

画像出典:Wikipedia 鳴瀬益幸さま

ナルセペダルではアクセルの操作方法を従来の方式とは違う方式にして踏み間違い事故を防止しています。

一方、わたしが開発した『手動スロットル装置』と『左足ブレーキ装置』は、『ペダル踏み変え操作』を無くすことで踏み間違い事故の防止を図った装置です。

画像出典:大野一郎

画像出典:大野一郎 STSS2 京都国際学会での論文発表(2015)

 

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