千葉工業大学 体育会航空部の死傷事故

30 4月 2018

千葉工業大学はわたしの母校です。

平成17年(2005年)8月31日、埼玉県妻沼滑空場で千葉工業大学所属アレクサンダー・シュライハー式ASK21型(複座)滑空機(グライダー)が利根川に着水する事故が発生しました。乗っていたのはわたしが航空部に所属していた頃からのT教官(当時56歳)と初体験搭乗中の女性1名でした。墜落着水のため、女性は溺死、T教官は頸椎捻挫の重傷でした。

この事故については、航空・鉄道委員会が航空事故報告書を平成18年2006年3月31日に発表しました。以下報告書を掲載しました(このPDFファイルを開くには、CTRLキーを押しながら左クリックしてください):

航空事故調査委員会報告書千葉工大事故

この報告書の事故原因について、結論からいうと機長T教官の判断ミスと粗暴な操縦が事故原因となっています。しかし、この報告書は、パイロット出身の調査官が書いたものでなく、操縦の何たるかを全く知らない、恐らく無線か情報官出身の調査官が書いたものと思います。以下:

機長が第三旋回で下降気流に入り、昇降計(バリオメーター:)の針がマイナス3~4m/秒(つまり、1秒間に3~4m下降すること)を示したので、滑走路に帰れなくなると思いピッケを行おうと考えた。

(大野註:)これに対して調査官は、多分ピッケの何たるかも知らず、かなり乱暴な報告書を書いています。T教官は本当に悔しかったでしょう。T教官はグライダーとしては驚異的な2,274時間34分(総発航回数9,527回)の飛行時間があります。グライダーの飛行時間は大体約10分ですからどれほど乗っているか判るでしょう? 以下T教官の口述から:

(T教官の口述)

第3旋回を開始してすぐに下降気流に入り、バリオメーターがマイナス(注)
3か4m/sくらいを指示したため、機首を第1滑空場に向け、下降気流帯を早
く通過するために機首を下げ速度を出すようにした。速度は毎時110~
120㎞くらいになったが、下降気流がまだ続いていたように感じたので最終
的に毎時130~140㎞くらいまで出すようにした。グライダーの場合、機
速が付くと地面近くで前に「グーン」と飛行距離が延びる傾向があるので、そ
の速度に持って行くと目的地に着けると思った。その方が滑走路に届くと思っ
た。

(報告書の書きぶり)

3.4.2 第3旋回後の飛行経路
機長は、第3旋回終了後、機首を第1滑空場に向けるとともに機首を下げ、増速
を行ったものと推定される。目撃者の口述によると同機の背中が見える状態であり、マイナス40°くらいの角度があったと述べていることから、降下初期においては急角度で降下を行ったものと推定される。
速度は機長が第3旋回時には毎時100㎞だったものが、機首上げ時には毎時
130~140㎞になっていたと述べていること、また墜落の目撃者が同機が着陸するような角度で降りてきたと述べていることから、機長は最初の急降下により加速した後、渡船場付近において機首上げを行い高度を獲得し、滑走路まで到達しようとしたか、又は加速した後、水面すれすれの低高度で飛行を続け滑走路直前で機首上げを行うことにより飛距離を伸ばすことが出来ると思い、これによって滑走路に着陸しようとしたものと推定される。
2.13.5に記述したように乱流がある場合、毎時90kmの進入速度をわずかに増や
すことが推奨されているが、機長が既に毎時100㎞で飛行していたところを機首を滑走路方向に向け、更に毎時130~140㎞に増速したのは、3.4.1に記述したようにそのままの速度で第2滑空場に到達することが可能であったことを考えると、乱流に対処する目的以外の操作であったものと推定される。

(T機長の口述)

滑走路の進入端付近にある渡船場に近づき速度が毎時130~140㎞にな
り、高度も10~20mくらいになったのでピックアップしようと操縦桿を引
いたが動かなかった。前席の女性が押さえ付けてるのかと思い、「操縦桿を離
しなさい」(大野註:こんな優しくはいっていないと思います。操縦桿から手を離せーと絶叫したと思います)と言い、更に力を入れて引いたがそのまま川に入ってしまった。状況としては、分かっていながら入っていった感じである。

(報告書から)

3.4.3 墜落状況
機長は高度10~20mにおいて機首を引き起こそうとしたが操縦桿が動かなか
ったと述べているが、目撃者は水の上に着陸するのかと思ったと述べていることから、急降下を行い、水面が近づいたので降下率を少なくするため、ある程度姿勢を戻していたが、急降下時の慣性力が残っていたため機体の沈みが止まらなかった可能性が考えられる。
2.1(5)の口述にあるように「機首の部分が5mくらい吹っ飛んで」とあること
から、同機は翼が左右ほぼ水平の姿勢のまま、かなりの高速で着水したものと推定される。この衝撃により機首部が胴体から破断し前方方向に約5m飛び、主翼を含む機体後部全体が、進行方向に前転したものと推定される。

(2.1(5)について)

女性に「ジェットコースターは大
丈夫ですか」と聞いたところ「大好きです」との返事であった。

ウインチにより発航し、離脱高度は約450mであった。第1旋回で右に
90°旋回したのち、周りの景色を見せるために直線滑空や旋回を行ったりし
た。その間、女性は終始リラックスして家が小さいだとか話しながら見ていた。

3.5 同乗者の行動について
3.5.1 急降下時の行動
同乗者は、今回が初めての搭乗であったことから、操縦桿等の操縦系統には触ら
ないように事前に注意がされていたと推定される。機長の口述にあるように上空ではリラックスして会話を交わすなどしていたことから、飛行に際し特に恐怖心はなかったと考えられる。

また、たとえ着水直前の水面が迫る様子に驚き、操縦桿を握ったまま、手を前に
突き出し、頭を後ろにのけぞらせる防御姿勢を取ったとしても、後席の機長が操縦桿を引き戻すことは十分可能であったと考えられることから、同乗者の行動が操縦に支障を来すことはなかったものと推定される。

(大野註:女性といえど人間が恐怖にかられて操縦桿を押さえつけたらなかなか引き戻すことは難しいと思います。少なくとも同型機で地上実験しなくてはなりません。それを簡単に何の根拠も示さず操縦桿を引き戻すことは可能だったと書いています。全く論理的ではありません。こんな報告書を書いているから世界の航空界から笑われるのです)

3.4.4 操縦桿の操作
2.1(1)で記述したように、機長は操縦桿が動かなかったと述べている。しかし、
3.2に述べたように、操縦系統に異常がなかったと推定されること、及び3.5.1で
述べるように同乗者の行動が機長の操縦操作を阻害した可能性が少ないことから、操縦桿は通常の範囲で操作することができたものと推定される。
機長が操縦桿が動かなかったように感じたのは、機長が考えているほど、同機の
姿勢変化がなかったため、操縦桿をストッパーより更に引こうとしたことによる可能性が考えられる。

(ピッケについて)

【ピッケ】
ノーダイブで高速進入、その後エレベータを引いて再び上昇し(=「”ピッケ”をかける」という)、Uターンして逆進入か、そのまま通常の場周に入れて着陸させる技術。 別にパイロットはふざけてやっているわけではなく、競技会のゴールや、オーバーヘッドアプローチなどでも必要になることがあるわけなのだが、実は学生の関係では、その昔、どちらかと言えば経験の浅い教官が(初めて??)やって、機首を上げたまま(気持ちの方が)舞い上がってしまい、その後失速して事故になったことがある。 他にも、異常に加速しすぎて水面(フレアーの目測がつけにくいのが原因と言われるが、私の見方は異なる。)に突っ込んでしまったケースや、曲技飛行のラストシーンで翼端を滑走路脇にこすってしまい、(恐らく)気が動転して、ピッケをかけた後の反転で失速、事故になったのもあった。 一たびそういうことが起こると、「全面禁止」の”お達し”が下るのがこの国の常。 しかし違法なのではまったくなく、グライダーと長くかかわっていれば、(それがどういう技術によらず)確率的に、まず間違いなく必要になる局面に遭遇することになるだろう。 不幸にも、その時になってやむを得ず「初めて試す」ということであれば、事故になって当然と言える。 木曽川でも、滑走路の風下側で強烈な下降風に見舞われて大きく失高した際など、高速で川面を低く引っ張ってきて(その方が風の影響は少なく、地面効果も得られる)、滑走路の手前のブッシュを(ピッケをかけて)飛び越え、一気に通常の着陸態勢に持ち込むことは、教官なら皆 朝飯前(??)でやれていた。(当時の機体の滑空比自体は今と比較にならないものの…。) 震災で生死を分けた小学校とか、無事だったのは、とりわけその先生方が、平素、これでもかというぐらい子供たちの立場に立った配慮(=危機管理)を尽くし、しつこいぐらいの避難訓練を励行していたところにほとんど限られていた。 人間、考えたくもないことは、知らぬ間に、気にも上らなくなるどころか、見えなくなってしまうものなのだ。
http://bit.ly/yY6LKB

(大野註:ピッケはグライダーが目的地につけないと思ったら誰もが行う通常技術です。事故調の調査官はそんなことも知らないと思います。T教官は何百回もピッケを実施したことがあると思います)

この事故は、あまりに水面が近くなって恐怖にかられた前席の女性が操縦桿を激しい力で押さえつけたのが原因で着水にいたったと思います。

 

動画出典:Youtube ASK21の着陸動画です。

 

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